反復する生き物

好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

下町ロケット ヤタガラス

下町ロケット ヤタガラス

池井戸潤小学館

 

待ちに待った発売は9/28でしたが、北海道は1日遅れのため翌日に購入。

まず一度読み切ってしまおうと、一気に読みました。

が、色々考えてしまったので、なかなか筆が進まず、今になりました。

 

先に言っておきます。これは『ゴースト』の下巻です。サブタイトルが違うだけで、本来『下町ロケット3 上・下』というような形で売り出していても何ら不思議の無いものです。

『ゴースト』の続きであることを前提に綴りますので、『ゴースト』未読の方は読むことをお勧めしません。お先に『ゴースト』を是非お読みください!

 

dmnlaa.hatenablog.com

 

【あらすじ】

業務提携するはずのギアゴーストに突然裏切られ、経理部長・殿村(とのむら)は退職、ロケット事業の頼みの綱の帝国重工・財前(ざいぜん)が他部署に異動。数々の試練に見舞われた佃(つくだ)製作所だが、その最中、財前からある依頼を受ける。

佃製作所の新たな夢と試練の幕開けだった。

 

前作でトランスミッションの製作を始めた佃製作所。今作ではそれがついにトラクターに搭載され、製品化されます。

「ヤタガラス」はその礎。再び佃社長と財前さんを結びつけ、佃社長は旧友との再会も果たします。

 

【感想】

今までの3冊に比べて、格段に読むのが苦しい1冊でした。

先も気になるし面白いのですが、とにかく展開が苦しいのです。下巻が上巻よりここまで遥かに苦しいなどということはありえるのか、と思ったくらい。

 

敵が多い。前回までと比べて、悪役がえげつなさ過ぎる。自分の側にも相手の側にも敵がいる。味方は動くに動けない。全体的に欲と金にまみれ過ぎている。

そして話の中では、世間的には相手方が正義で、佃製作所は悪役に与していることになっており、そこがまたもどかしい。しかも本当に、的場という悪役が蔓延っている。

また、ライバル方の中心2人(伊丹・重田)が、根っからの悪役と思えないのも、またモヤモヤする原因です。

『ゴースト』でお互いの苦い過去の共通の敵を倒すために、負の共鳴をした2人。人としては正しくないのかもしれませんが、気持ちは否定できない。

重田はともかく、伊丹はその魅力や弱さを含めて人柄が『ゴースト』でじっくり描かれているので、思い入れる読者も多いと思います。私もその1人です。

早く目が覚めて、島津の元に戻るという展開を望む読者も多かったはず。それがなかなか思うように進まない。

今回は、前回のサヤマの椎名と違って(ドラマには創作されていましたが、原作にはない)、重田然り的場然り、正しいか正しくないかは別にして、敵役にも確固たる矜持があるからです。

(伊丹はそこまで強い人ではないので、重田の強烈な思いに飲み込まれた感がありますが)

 

そして、一度読んだだけでは、読後感も爽やかといえませんでした。

私と同じく、どうもすっきりしなかったという方は、もう一回読んでみたらどうでしょうか。

私は苦しい展開が早く終わって欲しくて、焦って次へ次へと読み進めていったのですが、最後の方まで苦しいので、結局読み急いでしまいました。そのせいか、最後も「これで終わり?」という気分になってしまい…

なので、読み返してもう一度辿ってみました。

そちらは下でまた↓語ります。

 

「ヤタガラス」は『ゴースト』でもその名称が登場しましたが、帝国重工の準天頂衛星の名前です。財前の異動前の最後の仕事でした。

なので、今回は全面的に財前が活躍するとは思っていましたが、相変わらず素敵でしたね。

大企業でここまで上り詰めて、信念を失わず、真摯に仕事に向き合えるのは本当に凄い。

1作目から、佃社長と双璧を担う盟友ですので、常に格好良いのは当然なのですが。

そして吉川晃司さんがこの上なく好きなので、もう気持ちはドラマに向かっています。

前回は動きがちょいちょいロックなのが少し気になるところもありましたが(笑)、含めて吉川晃司ですので…^ ^

 

下町ロケット ヤタガラス

下町ロケット ヤタガラス

 

 

◆反復読後の小部屋◆※既読推奨

前回も2冊でドラマの1クールを作っていたので、今回も恐らく後半は『ヤタガラス』が入ってくるかと思われます。

いや、そうでなければ、原作通りの『ゴースト』のラストでは、視聴者は納得しませんから。

(テレビなのでオリジナルを突っ込んで無理矢理大団円を作るという方法もあるが、原作ファンは絶対に納得しないし、私自身も受け入れられないので、それだけはやめてほしい)

まぁ、ロケットやガウディの位置付けが、今回は「ランドクロウ」なので、製作前の『ゴースト』でドラマを無理矢理終わらせるということは無いでしょうけど。

 

今回の私の焦点は、伊丹とシマちゃんがどういう道を歩むことにするかでした。

伊丹のパートナーは、シマちゃんなのか重田なのか。

結局、伊丹とシマちゃんは元には戻りませんでした。1度読んだ時には、私はそれが不満でした。

でも、伊丹は呪縛から解き放たれ、シマちゃんは一番やりたかったものづくりができる環境にいて、また笑顔で向かい合えた。

伊丹は物を作る人ではなく、シマちゃんは物を作る人。企画設計のみのギアゴーストで2人がずっと一緒にやっていくのは、もともと無理な話だったのかもしれない。

だったらこれで十分だったのかなと。

呪縛から解き放たれてもなお重田と共に、顧客を助けるために貰った佃のノウハウを使いながら「ダーウィン」を作って売るのなら、もうそれは伊丹の選んだ道だから。

そして、シマちゃんはもう完全に佃製作所の一員ということでいいのでしょうか。

トノさんが居なくなった後、続編で佃製作所の主要登場人物として動くということなら、この展開で納得。

初読では、どうもしっくりこなかったラストでしたが、やっと昇華できました。

 

ドラマでは、尾上菊之助さんが演じるということもあり、伊丹のラストのシーンが原作より膨らむ気がします。

(的場も神田正輝さんなので、的場が的場たる所以を原作以上にクローズアップする気もします。古舘伊知郎さんの重田もあるかな)

前作、小泉孝太郎さんの椎名には思いっ切り蛇足がついており不満でした。

途中の人生を語るところは悪くないですが、最後の最後の出所後のくだりは、本当にあれをストーリーに組み入れられると話が変わってしまうではないですか。

今回は、昇華しきれないラストを視聴者に分かるようにちょっと色付けするくらいに留めてもらいたいものです。

 

あと、色つけるなら是非、シマちゃんがトランスミッションの改良を行って特許を申請しようとする場面で、神谷先生を出演させてください。

神谷先生、『ゴースト』では大活躍でしたが、『ヤタガラス』には名前しか出てこないので寂しかったです…

 

そして、今作から登場の重要人物・野木博文教授は誰が演じるのでしょうか。

ちなみに北海道には、北海道農業大学も北見沢市もありません(笑)

 

《追記10/4》

もう1度後半を読み返しました。落ち着く前に読み返すのと、落ち着いてから読み返すのとでは、また全然違って捉えられるものですね。

やはりこの2冊は、伊丹とシマちゃんの物語。トランスミッションを作るために墓から這い出てきたという変わった幽霊。

シマちゃんは天才でまっすぐで、ある意味非の打ち所のない登場人物ですが、伊丹は経営才覚に優れ、男気もありますが、過去を清算できなくて迷う、後悔する、嫌な奴になる場面もいっぱいです。

でも、自分たちの非を認め、惨めな思いをしながらも何度も佃製作所に頭を下げ続け、ヤマタニのリコールを受け止め切り、持ち前の才覚で会社を立て直した伊丹はやはり格好良い。

読んでいたら、伊丹の人生は、思い上がり、失敗し、反省して立ち上がる繰り返しです。それがまた人間らしくて、見事な「シリーズ主人公」でした。この物語の花形の役どころです。

見た目もオーラも華やかな、尾上菊之助さんがどう演じるのか。期待します。