反復する生き物

好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

七つの会議

七つの会議

池井戸潤(集英社文庫)

 

映画を見た後、本当はすぐ読むつもりはあまり無かったのですが(映画が非常に面白かったため、そのまま余韻にしばらく浸っていたかったのです)、何かのサイトで「原作はオムニバスですが、うまく1つにまとめられていた」というようなコメントを見て、原作の構成に興味が湧いた次第です。

映画の方にも書きましたが、私は先に映画を見てしまったので、原作は映画で語られなかった背景を補足してくれるものでもありました。

 

【あらすじ】

舞台は中堅メーカー・東京建電。

目覚ましい業績を上げる営業一課長・坂戸宣彦は、ある日「居眠り八角」と揶揄される万年係長の八角民夫によりパワハラで訴えられる。誰もが坂戸は守られるものと思っていた中、坂戸は左遷。この不可解な人事処分に始まり、8人の登場人物の目線で、東京建電が抱える問題の真相に迫っていく。

 

【各話タイトル・主人公】

第一話 居眠り八角→原島万二。東京建電営業二課長。

第二話 ねじ六奮戦記→三沢逸郎。ねじメーカーねじ六社長。

第三話 コトブキ退社→浜本優衣。東京建電営業一課事務。

第四話 経理屋稼業→新田雄介。東京建電経理課長代理。

第五話 社内政治家→佐野健一郎。東京建電カスタマー室長。

第六話 偽ライオン→北川誠。東京建電営業部長。

第七話 御前会議→村西京助。東京建電副社長。

第八話 最終議案→八角民夫。東京建電営業一課係長。

 

七つの会議 (集英社文庫)

七つの会議 (集英社文庫)

 

 

【感想】

確かにこのオムニバスを映画はよく上手くまとめていたという印象。

映画は完全に八角(野村萬斎さん)が主人公、目線は原島(及川光博さん)、その補佐役に優衣(朝倉あきさん)という位置付けなので、その他の登場人物の背景はほぼ描かれていません。ですが、原作は主人公が各話で変わっていくので、彼らのルーツや社外でのエピソード、自身が抱える問題等も深く掘り下げられており、全く違う目線の物語が次々に楽しめます。

どの話の誰に感情移入できるかとか、人によって異なると思いますが、私はねじ六と坂戸を推したいと思います。

ねじ六は『下町ロケット』や『陸王』を思わせる無骨で真摯な町工場。独身の兄と離婚して戻ってきた妹の2人で、薄利多売のネジ工場を営む様は、もっとこの話を読みたいと思わせるものでした。

坂戸は主人公になる話は無いのですが、最終話で過去やその人柄が掘り下げられる場面があります。営業一課のエースでありながら、社内でも好感を持たれていたというキャラクターは、育った家庭で培われたものでした。しかし坂戸にとっては幸せなだけの家庭ではなく、親に兄に複雑な思いを抱きながら自分の道を進んできて辿り着いたのが今。真っ当な良心、燻る劣等感、自分の全てを捨ててまでは献身的になれない弱さを持ち合わせ、それを全て自分で分かっている生々しい人物です。心の中が語られる場面は一冊の中ではほんの少ししかないのに、これだけ感じさせる書き方って凄いなと思いました。

暴かれていく真相を一緒に追うのも楽しいですが、同時に登場人物にじっくり思いを馳せるも良いと思えた一冊です。

 

【映画との比較】

といっても、大層なものではないのですが。映画と原作の違いとその感想です。小さなエピソードはネタバレを含んでいるので、読む方はご注意ください。

 

①原作は第一話で八角がもう原島に真相を語ってしまう(が、その真相は書かれていないので、この時点では読者には分からない)

②そのため原作ではパワハラの訴え以外の謎の行動は、八角ではなく原島が行う

③原作は優衣が八角・原島とほぼ絡まず、真相の究明に参加しない

 

原作では真相の究明が中心ではなく、各話の主人公のエピソードを中心に進んでいく上、以上の違いもあり、人物像が全く違って見える部分も多いです。

 

そして、映画には皆無といってよかった主要人物の家庭の描写もありますが…エグい。

特に新田。生まれ育ちも非常に肯定しづらく、「根の深いクズ」。うわべはただの調子の良いバカ男に、このようなルーツがあるのあったとは。原作でも土下座していました。藤森さん、お疲れ様でした。

でも一番嫌な気持ちになったのは、坂戸の妻ですね。どうしてこの人がこんな人と結婚したのだろう、と思わずにいられず。原作の坂戸には結構思い入れてしまったので、割と我慢ならず(笑)。生まれ育った家庭は良くも悪くも至極真っ当で、お兄さんが素晴らしい。原作では橋本さとしさんが演じて少し出てきただけでしたが、あのお兄さんがこれかと思うと何だか嬉しかったです。坂戸も坂戸で、そこまで優れた兄に劣等感を覚えつつも、愛情と尊敬も感じました。本当に原作では少しだけの登場なのに、深いです。

あと少し勝手に気になったのが、北川部長の家ですね。北川部長の家庭、原作ではあまり良い感じではありません。全てのキャリアを捨ててバラ園が許されるような感じは全くしませんでした…。バラ園の話は原作では皆無なので、映画の創作かと思いますが、こちらは個人的な感情から映画を肯定したいです。

そもそも北川は、原作では八角の盟友どころか、悲しい悪役です。見どころもあまり無いので、原作を否定するわけにいきませんが、香川照之さんに思い入れてしまっていた私としては、寂しい気持ちになりました。

 

今回は映画も見ていてお腹いっぱいなので、繰り返し読みはしていません。

まとまり無いですが、今回はこの辺にしておきます。