反復する生き物

基本的には好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ(ときどき別コンテンツあり)。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

大奥2巻

大奥2巻

よしながふみ(白泉社・ジェッツコミックス)

 

初めて2巻の表紙を見た時には、「このお坊さん誰?なんで?」と思ったものでしたが(笑)

1巻最後で吉宗が、『徳川実紀』には語られていない(この作品の中での)真実の歴史を綴った『没日録』に辿り着いたので、この巻からは『没日録』の内容が物語になります。

スタートは赤面疱瘡が流行り出した3代将軍・徳川家光(とくがわ・いえみつ)の御代。

表紙の僧は、史実では尼から還俗して家光の側室となったというその人の、物語の中での僧の時の姿です。

 

【あらすじ】

時は寛永9(1932)年、徳川三代将軍・家光の御代、世に異変が起こる。若い男性ばかりが羅漢する謎の疫病が猛威を振るい始めたのだ。その症状から赤面疱瘡と呼ばれた病は、貴賎無く男子を襲い、急速に男子の人口が減っていく。その波はついに江戸城にもーーー

しばし時は流れたある日、慶光院の新院主となる万里小路有功(までのこうじ・ありこと)は、将軍への継目御礼(つぎめおんれい)のため江戸へ。家光の乳母・春日局(かすがのつぼね)に迎えられた有功は、何故か寺へ向かわせてもらえず、不自然な足止めを食らう。そこには春日局による、驚くべき意図があった。

 

【時代と幕府の主要人物】

寛永9(1632)年頃〜

将軍:三代・徳川家光

御台所:(登場せず)※実際の徳川家光には鷹司孝子(たかつかさ・たかこ)という正室がいて、物語の中でも娶ったことだけは家光の台詞から分かります

大奥総取締:春日局(かすがのつぼね)

側室:お万の方(おまんのかた)

 

【感想】

この巻の主人公は、万里小路有功。公家の家に生まれながら出家し、慶光院という寺院の新しい院主となるべく、将軍に継目御礼(新任のご挨拶みたいなものでしょう)にやってきた美男の僧です。

水野に続き、やはり主人公は美男なのだな、と思わせられました(笑)

水野は粋な江戸の男性でしたが、有功は公家の出らしい気品と聡明さと、僧になるだけある穏やかで優しい気性の持ち主です。

大体の方は読んでいて有功を推したくなると思いますので、この巻は苦しいですよね。

この頃の大奥は、将軍の寵を競うための集団ではなく、少なくなった男子を集め将軍を守るための最後の砦となることが目的なので、いかつい武士ばかり。その中に公家の出の美男がいれば、当然変な目で見られ、疎まれます。

慶光院の院主となり徳を積むという大志は、酷い手段で閉ざされ、生きる意味さえ失いそうな慣れない生活の中、陰惨な嫌がらせを受けるのですから、死にたくなってもおかしくありません。

それでも「郷に入れば郷に従え」ということなのでしょうか、有功は見事に耐え続け、徐々に持ち前の気性が周りの人間の心を動かしていくのが救いになります。

そしてラスト。続きを応援したくなるようなシーンで2巻は終わります。

有功の物語は2巻で完結しないので、苦しいばかりの巻でした…あらすじに触れないようにしたら本当に書くのが難しい…

でも、とにかく絶対続きも読んでください。いえ、間違いなく読みたくなるはずですけど。

 

大奥 2 (ジェッツコミックス)

大奥 2 (ジェッツコミックス)

 

 

◆反復読後の小部屋◆※既読推奨

有功の苗字は万里小路。お万の方の「万」は、万里小路の「万」というのが、この作品での設定。

史実でのお万の方は、側室で唯一の大奥総取締であり、家光の寵愛も深かったといわれています。なので、この巻では苦しくとも、有功はこのまま終わらないと信じられるため、割と平静を保ちながらの初読でしたが、繰り返し読んでみると、まぁ酷いですね…

 

上はあらすじの核心に触れないように書いているので、一切触れませんでしたが、家光。

春日局が溺愛した本当の竹千代→家光は、クズ。その一言。

本物は31で死に(寛永12(1635)年頃)、漸く江戸幕府の体制も整ってきたところでの将軍の死は伏せるより他無く、史実の家光が没する慶安4(1651)年までの後ろの約16年は、家光の強姦により生まれてきた娘・千恵が替わりを務めることになるという、正直ぶっ飛んだ展開ですが…

この流れは作り込みがしっかりしていて説得力があり、千恵の人生と心が歪むより他無かった背景もしっかり描かれているので、嫌な女の子には見えず。絶望しながら江戸城で暮らすお互いの心が少しずつ惹かれ合っていくという、本当に応援せずにはいられないラスト…

しかし史実では、お万の方には子は無く、家光には3人の子で全て腹違い…このまま男女の幸せを全うできないのかと思うと、何度読んでも悲しくなります。

 

そして最後に。

吉宗の正室と同じく、家光の正室も出てきません。が、吉宗は正室を持たなかった設定だったのと違い、家光は男性の家光が正室を迎えたと作中で話しています(鷹司孝子と思われます)。手はつけていないとは言っていますが、さすがに亡くなったらバレてもおかしくないし、どうしたものかと、描かれていない部分なのに想像していました。

しかし、鷹司孝子の生涯を調べて納得。家光との仲は最初から冷え切っており(これは有名)、婚姻後すぐに事実上離縁され大奥から追放、長期に渡って軟禁生活を強いられていたそうです。これなら確かに出てこなくてもおかしくないし、バレずにやっていけそうですね。

描かれていない部分にもこの説得力!見事です。

 

 

◆既刊を全部読んだ後の小部屋◆※既読推奨

家光・有功編は3巻以降も続きますが、このパートが終わっても物語の表舞台に出続けるキャラクターが1人。

お玉の方こと、玉栄です。

史実では、お玉の方は5代将軍・綱吉の生母である桂昌院。僧・隆光を寵愛し、悪名高い生類憐みの令にも関わっていたといわれていました(最近色々見直されつつあるようですが)。実際にもお万の方の部屋子です。

しかしこの作品の視点で見ると、あの有功を敬愛する可愛い弟キャラがどうして有功の想い女と子を作り、悪名高いともいえる桂昌院に変貌していくのか疑問に思う方もいるかと。

ただ、桂昌院も見てから読み返すとまた、伏線はきちんとあります。玉栄の行動は、有功を思うあまりに行うものだし、周囲の人間も酷い上、主人公は有功ですから、ただ2巻だけ読んでいると気にはならないかもしれませんが、実は残忍。そして気性の激しさは、登場時から実は描かれています。

読み返すと、有功が優し過ぎるが故、玉栄の気性のストッパーになっていたともいえますが、逆に助長させていたのでは?とも思いました。玉栄は有功の気性に触れ、己を振り返るような部分もありますが、当の有功は自分を責めることはあっても、玉栄を諫めることは無かったですからね。後年、生類憐みの令が話題に上った時も変わりませんでした。

しかし、玉栄を好きかと問われると難しいです(苦笑)

そのように感じる方も多いと思います。