反復する生き物

基本的には好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ(ときどき別コンテンツあり)。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

アルキメデスの大戦(映画)

アルキメデスの大戦(映画)

 

archimedes-movie.jp

 

まだ連載中ということで、どうオチをつけるのか疑問だったので、正直そこまで期待はしていませんでした。1本の映画として完結させるためにオリジナルの展開とか付け足されても興醒めですしね。

でも、原作を試し読みで読んだら面白かったのと(2巻までですけど)、『特攻の島』を読んでいたので、日本海軍の映画を何か見てみたいと気持ちがあり、観賞に至りました。

 

アルキメデスの大戦

アルキメデスの大戦

  • 発売日: 2019/12/08
  • メディア: Prime Video
 

 

【あらすじ】

時は1933(昭和8)年、海軍省では、新型戦艦建造計画会議で2つの意見が対立していた。今後の戦局では航空機を主体となり大型戦艦は不要という海軍少将・山本五十六(舘ひろし)が支持する対航空機戦闘を想定した藤岡喜男造船少将(山崎一)と、巨大戦艦建造を推す平山忠道造船中将(田中泯)の案である。

建造予算が低い平山案が有利と見られる中、大型戦艦の建設を阻止したい山本少将と永野修身海軍中将(國村隼)。異様な建造予算の低さを不当と考え、その証明のため、数学の天才と称される元帝大生の櫂直(菅田将暉)を海軍主計少佐に抜擢するがーーー

 

【ネタバレに触れないようにした感想】

…といいましても。原作を1巻しか読んでいない私でも、最後まで観る前に、櫂少佐の天才的頭脳が最終的に平山案の予算が不当であることを証明する展開は予想がつきます。

この映画の面白さは、完全にその過程にあります。目的を達成するために苦労しながら試行錯誤する櫂少佐の天才ぶりと、櫂の補佐を命じられた田中少尉(柄本佑さん)との掛け合いが、観ていて爽快で楽しいです。

2人とも原作よりキャラクターに色がついていて、櫂は何でも計りたがる変人、そのせいで田中は最初櫂を変人扱いして斜に構えた態度。原作には無い軽妙なやり取りが素直に面白いです。

でも2人がしていることは、限られた時間の中で複雑この上無い戦艦の知識と情報を集めながら、国家レベルの建造案の数字の不正を暴くこと。戦艦がどのように造られていくのかということや、当時の海軍の権力争いなどが描かれているのも見応えたっぷりです。

時代背景と題材は重いものになっていますが、「若き天才が海軍のズルいお偉いさんを類稀なる頭脳でやり込める物語」という面があり、爽快です。

最後どこでどう終わるのかまで触れると、少し違った面もあるのですが、本当のネタバレになってしまうので、ここではよしておくことにします。

 

 

↓以下注意↓

【ネタバレありの感想】

原作を読んでいる方にとっては、この映画は完全に「序章」と思うことでしょうが、この切り取られた部分を、予想以上に1本の映画として上手く成立させたと私は思いました。

1人の若き天才が、様々な数学的根拠と地道な努力から国家に関わる計画をひっくり返すまでの物語として見事に成立しています。

ですが、この後大きく展開していく原作を知っている方にとってはやはりほんの「序章」に過ぎないので、ストーリーとしては物足りないというところを、登場人物のキャラにアクセントをつけて魅せるという手法なのかなと思いました。原作を知る方々にあのキャラ付けは賛否両論かもと思いますが、私には面白かったです。

 

そしてラスト。

海軍のズルいお偉いさんをやり込めてチャンチャン♪ではなく、続きがあります。

自らの設計の非を認め、潔く撤回した平山造船中将は、ただのズルい人ではありませんでした。

今日本の象徴としての大型戦艦に拘るのは、欧米列強に勝利するためではなく、逆にその旗艦を敗れて失うことで「勝ち戦ではない」ことを日本が思い知るためだという…

日露戦争の勝利に酔いしれ、勘違いして誤った道に進んでいこうとしていることに、既に気付いていたというわけです。

結局戦艦は建設され、それこそが戦艦「大和」。映画の中の櫂は、平山中将の言葉に何を思い、大和を見送りながら何を思っていたのでしょうか。語られるシーンはありませんので、観る側が考えさせられることになります。

「勝利」の後に、「敵」の真意に触れた主人公が物思う。これがまた、単なる「勧善懲悪」の図式に留まらない作品として、上手く最後を締めています。

なので、個人的には続編は要りません。この1本で原作とは別に楽しんでもらいたい作品だと思います。