将棋の渡辺くん1巻
伊奈めぐみ(講談社・ワイドKC)
今年5月頃、コロナでスポーツを追う機会が激減し、何か他に楽しみを…と思っていたところで、何故か将棋に着目。子供の頃、父の影響で棋戦を追っていたので、ふと思い出した感じです。
AbemaTVの将棋チャンネルでAbemaTVトーナメントの動画を見たら、俄然興味が再び湧いてきました。
その関連動画の1つ↑で紹介されていたのがこの作品です。
(少々残念なことに、こちらの弟弟子のお二人(近藤誠也七段・石井健太郎六段)は既刊5巻までには登場しませんが…漫画を読んだ方は是非ご覧になってください)
それから現在にかけ、主人公の渡辺明三冠(2020年5月当時。棋王・王将・棋聖)は、藤井聡太七段(当時)に最年少タイトル奪取(棋聖)を許しましたが、直後に悲願の名人奪取…と、ドラマがたくさんありました。
1-4巻は6月頃にもう読んでいたのですが、完全に「観る将」となった今読むとますます面白いです。
※棋士の先生のタイトル・段位は本記事投稿時(2020年9月23日)のものとなっています
【作品内容】
作者は、渡辺明名人の奥様・伊奈めぐみさん。お兄様も将棋棋士・伊奈祐介七段(奥様は囲碁棋士の佃亜紀子さん)で、自身も元女流育成会員という方です。
主人公は勿論ご主人・渡辺明名人(棋王・王将)。めぐみさんと息子さん・柊くんとのご家族の日々を中心に、将棋界のあれこれ、渡辺名人と交流のある棋士さん達のエピソード等が、可愛い画で綴られています。
エピソードは完全には時系列順に並んでいませんが、竜王9連覇中(2004〜2013年)の期間が主かと思います。(息子さんが小3、佐藤天彦九段が25歳で始まっているので、スタートは2013年といったところでしょうか)
【漫画としての感想】
「観る将」としての感覚が前面に出てしまうので、純粋に漫画としての感想というのは難しいのですが…
とにかく絵が可愛いです。
実際の渡辺名人はどう見ても、頭も話し方もキレキレで隙が無い方という感じなのですが、この漫画では全然違って見えます。
世間では最強棋士と謳われていても、奥様から見れば「抜けたところもある愛すべき旦那様」といった感じです。
動画や中継でご本人をよく見ていたファンとしては、最初「本当に同じ人!?」と、イメージのギャップが埋まりませんでした。
が、漫画以外のインタビュー等でも普通に同じエピソードが語られており、間違い無く同一人物(笑)。非常にオープンな渡辺名人のお人柄が感じられます。
漫画なので、その日常は「抜けている」ところが特にクローズアップされていますが、可愛い絵と相まってほっこりします。
将棋が分からなくても十分楽しめる作りで、将棋に興味が無い人(がそもそも読むのかということは置いておいて)が読むと、将棋に興味が湧くのではないでしょうか。多分「観る将」入門としては、最適の漫画だと思います。
- 作者:伊奈めぐみ
- 発売日: 2015/12/09
- メディア: Kindle版
【「観る将」としての感想】
興味深過ぎて、思うことはたくさん出てきます(笑)
他の棋士の先生方も名前付きで登場されることが殆どですが、名前が無くてもきちんと絵が実際のエピソードに基づいていてどなたか分かるところが好きです。可愛い絵できっちり特徴を捉えていらっしゃる…(渡辺名人だけデフォルメされ過ぎだけど笑)
対局者は大体羽生善治九段、最初のページの遊びに来ている先生方は佐藤天彦九段・村山慈明七段・戸部誠七段かと思われます。
絵を見ながら「○○先生だ!」とか思うのも勿論楽しいのですが、渡辺名人や棋士の先生方のお人柄やエピソードの他、奨励会や対局中の記録係について等、将棋を観ていてもなかなか知ることのできない部分にもスポットが当てられているのがまた興味深いです。
84ページからを読むと…7/19の叡王戦第三局と四局は本当に大変だったろうな…と、改めて思いました…(この日の記録係は高橋佑二郎三段。今年度下期から三段リーグということで、おめでとうございます!)
立会人はすぐ対局室を出ていけるのに、記録係はトイレも基本的に行かないと…
順位戦とか、開始から12時間以上に普通になりますよね…
そして当然眠くなるときもあるとは思うのですが、お給料も出ているし、居眠りなど許されないと思っていたので、漫画に普通に描かれて良いものかと思いましたが…
対局者であるプロ棋士の先生方も、記録係は経験してきたので(勿論アリかナシかならナシなのでしょうが)、寛容というかお優しいお言葉も見かけたり。
(こちらの動画の↓都成竜馬六段。ちなみにお三方(糸谷哲郎八段・高見泰地七段)とも既刊5巻までにご登場されます)
でもずっと盤・時計・棋譜だけを見ていなければならないのかと思っていましたが、詰将棋解いたりしていても良いのですね。初めて知りました。
記録係は奨励会員です。
プロ(四段)に上がれるのは年に4人(次点2回のフリークラス入り除く)という狭き門。しかも年齢制限あり。
でも、上にご紹介した動画では、一般的には「初段前後が壁」と言いながら、「勝手に四、五段までぐらいまでいくじゃないですか。プロになる人って」(渡辺名人)という。そして、「アマチュアのときって、『どうやって強くなろう』なんて思ったことないでしょ?」(渡辺名人)という質問には、近藤七段も石井六段もさらっと同意されていました。
渡辺名人はもちろんプロの中でも一流のトップ棋士ですが、今年、近藤七段もB級1組へ昇級を決めて昇段、石井六段も竜王戦5組優勝で昇段と、ご活躍されています。
プロへの道は険しいものに違いないのでしょうが、実際にプロになる方にしか分からない感覚があるということなのですね。
次巻以降にも「努力より才能」と語るエピソードが出てきますが、身も蓋もない理論ではなく、なるほどと思わせられるものなので、是非実際に読んでいただきたいです。