反復する生き物

基本的には好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ(ときどき別コンテンツあり)。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

大奥4巻

大奥4巻

よしながふみ(白泉社・ジェッツコミックス)

 

4巻の表紙は、玉栄の成長した姿です。家光の側室になり、五代将軍・綱吉の生母であるお玉の方→桂昌院という、江戸幕府の歴史の中ではどちらかというと悪く言われる人物、その人です。

後半より、時代は元禄時代へと進んでいきます。

 

【あらすじ】

赤面疱瘡(あかづらほうそう)の流行で男子の人口は減り続け、ついに男子相続を前提とする体制の限界を感じた江戸幕府は、三代将軍・徳川家光(とくがわ・いえみつ)の落胤である千恵(ちえ)を公に将軍とし、女将軍が誕生する。

しかし女将軍はあくまで仮の措置であり、男子を産んでいない千恵は、世継ぎの男子を望まれることは変わらなかった。自分が子を成せないと悩んでいたお万の方(おまんのかた)こと万里小路有功(までのこうじ・ありこと)は、千恵への思いを燻らせながらある決断をする。

 

 

【時代と幕府の主要人物】

寛永20(1643)年頃〜?

将軍:三代・徳川家光→四代・家綱(いえつな)→五代・綱吉(つなよし)

御台所:(登場せず)→浅宮顕子女王(あさのみやあきこじょおう)→鷹司信子(たかつかさ・のぶこ)

主な家臣:柳沢吉保(やなぎさわ・よしやす)※綱吉時代

大奥総取締:お万の方(おまんのかた)→右衛門佐局(えもんのすけのつぼね)

側室:お万の方、お楽の方(おらくのかた)、お夏の方(おなつのかた)、お玉の方(おたまのかた)→(登場せず)→お伝の方(おでんのかた)

 

【感想】

3巻の最後で女将軍・家光が誕生。「男女逆転」を大きなテーマとする『大奥』の物語が本格的にスタートし、展開していこうとするのがこの4巻になります。

3人の将軍が登場する巻でもありますが、やはり家綱は影が薄かったですね。

歴史上でのインパクトでも、三代・家光と五代・綱吉に挟まれて、非常に弱い印象ですから仕方ないのでしょうが…顔まで冴えなくする必要が…?千恵と有功にそっくりなお楽の娘がどうしてこの顔になるのか…(苦笑)

将軍なのに完全にモブキャラ扱いの家綱の物語はすぐに終わり、綱吉が登場しますが、この綱吉、『大奥』の中では珍しい描かれ方の可愛い顔をしています。そして、桂昌院こと玉栄に、蝶よ花よと育てられたお姫様というのがぴったりの性格です。

この外見と奔放な性格が、ここまででは悪い方向にしか進んでいないように見えるので、読者人気は無いでしょうね(苦笑)

私もあまり好きではありません。

ですが、歴史に名を残した綱吉ですから、ただの悪名高き将軍というだけでは終わらない描かれ方をされるのだと思います。

 

大奥 4 (ジェッツコミックス)

大奥 4 (ジェッツコミックス)

 

 

◆反復読後の小部屋◆※既読推奨

家光の最期と綱吉の時代のスタートに挟まれた家綱の物語が一応1番尺が取られている4巻ですが、明らかに前後の方が物語のメインストリームのため、間は繋ぎという感が否めず駆け足です。なので、繰り返し読んでも新たに生まれるものは少ない1冊でしたが。

これもまた繰り返し読んでも今ひとつストンと来なかったのですが…何故有功は、大奥総取締になりたがったのでしょう?

有功は僧として生きていくつもりだったくらいの人なので、大奥内での地位等に対して野心の無い人だけど…と、考えていましたが…

前巻の玉栄を千恵の側に上げたところと合わせてみて、ちょっとハッとしました。

で、1番納得いきそうな結論に辿り着きました。

千恵との子を成せないなら、替わりに他の男たちの中で、何かで特別になろうとしたのだと。そしていっそ千恵が他の男の子を産むのなら、その父親は自分の部屋子の玉栄であればまだマシだと。自分が千恵の特別であることを、千恵の心の中だけではなく、目に見える形でも大奥に残したかったのだと。

実は有功は相当嫉妬深い人(前巻で自分の部屋を切りつけたことからもわかります)で、自分の地位も名誉もどうでもいいのに、千恵に対することだけは我慢がならなかった。でも千恵の生きる道は「将軍」しかなく、その道を全うさせるには自分という男は身を引くしかなく。

その心の内の葛藤は直接的な言葉では表現されていないので、正解かどうかは今もわかりませんが、こう考えると有功の行動の動機が少なからず納得がいきました。

また他の読者さんはどう考えたのか、聞いてみたいものです。

 

 

◆既刊(17巻)を全部読んだ後の小部屋◆※既読推奨

既刊(現在17巻)全部読んでも、家綱が1番パッとしない将軍ですね。可も無く不可も無く。いえ、「左様せい様」とは悪口ですから、どちらかというと不可ですね。悪者は悪者なりに物語に華を添えますから、地味なのに不可というのは、登場人物としてはどうしようもないですね。

七代・家継(いえつぐ)も早逝のため、出番は少なくほぼ登場しない将軍ですが、聡明で愛らしく優しい少女の一面を垣間見せているので(7巻参照)、家綱とは比べ物になりません。母親(六代将軍家宣・いえのぶ)も父親(月光院・げっこういん)もできた人でしたし。

3巻の記述で、好きなキャラについて触れましたが、私は月光院もなかなか好きです。「なかなか」なのは、惚れた女が良くないからです(苦笑)

4巻は「繋ぎ」の巻なので、もう書けることがありません。というわけで、この辺で。