反復する生き物

基本的には好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ(ときどき別コンテンツあり)。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

大奥5巻

大奥5巻

よしながふみ(白泉社・ジェッツコミックス)

 

徳川前期の物語の中で長丁場となる、綱吉(つなよし)の物語が本格的に始まる5巻です。

綱吉は確かに好色の美人の設定ですが、この表紙は…(苦笑)

もう少し普通に可愛くて上品な感じでも良いと思うのですがね。

 

【あらすじ】

女将軍が定着した元禄の世、五代将軍は玉栄(ぎょくえい)こと桂昌院(けいしょういん)の娘で館林家の徳子(とくこ)→綱吉。平和な世に生まれ、愛くるしい容貌を持つ綱吉は、御台所・信平(のぶひら)や長子・松姫(まつひめ)の父親であるお伝の方(おでんのかた)という側室がありながら、数多の男性と奔放な性生活を送っていた。

信平の手引きで大奥に入り大奥総取締の座を得た右衛門佐(えもんのすけ)と、信平と対立する桂昌院は、綱吉に子を成させるため、次々に大奥に男達を迎え入れるが…

 

【時代と幕府の主要人物】

貞享4(1687)年頃〜?

将軍:五代・徳川綱吉

御台所:鷹司信子(たかつかさ・のぶこ)

主な家臣:柳沢吉保(やなぎさわ・よしやす)

大奥総取締:右衛門佐局(えもんのすけのつぼね)

側室:お伝の方

 

【感想】

この巻はパッと見、まともな人間はお伝の方こと伝兵衛しかいないという、正資曰く「馬鹿馬鹿しい元禄の世」です。正資はすっかりご隠居さんみたくなってしまいましたね。

この「元禄の世」のトップは綱吉。愛くるしい容貌で男達を好きにしてきたというロクでもない描かれ方の将軍ですが、徐々に老い、実はずっと抱えてきた悲しみや葛藤が明らかになってきます。このように生きてくるしかなかった、というのが正しいのでしょうか。

かといって好きになれるかといえばそれもまた別なのですが、少なくともただの愚かな女ではなく、『大奥』の見事な主人公の1人として認めざるを得ませんでした。映画になるだけあります。

そしてそのお相手もまた一癖も二癖もある右衛門佐。玉栄に有功をすぐ思い出させる容貌ですが、絵は顔に狡猾さが滲み出ているので読者は騙されません(笑)

ですが、その右衛門佐にも複雑な思いと矜持があるわけです。綱吉に取り入って出世する野心しかない男かと思いきや、この幕府の中で唯一面と向かって綱吉を諭し、思いを理解する人だということが分かります。

登場人物の描き方に深みが増した5巻、4巻よりずっと面白いです。有功ロスで4巻読んでうんざりした方もいらっしゃるかなと思いますが、どうぞ5巻も頑張って読んでみて欲しいです。

 

大奥 5 (ジェッツコミックス)

大奥 5 (ジェッツコミックス)

 

 

◆反復読後の小部屋◆※既読推奨

この巻でストレートに1番格好良いのは、お伝の方こと小谷伝兵衛です。何回も読んで思いました。

ちょっとおバカさんで、出自も(家族も)卑しいのですが、心が綺麗で一本筋の通った人です。途中に綱吉の回想(作品内では病床の綱吉が見ている夢)があるのですが、館林藩主の頃に伝兵衛と出会ったシーンもあり。綱吉が実は本当に想いを寄せていたであろう阿久里(牧野邦久)は別の女性と婚姻、おもと(柳沢吉保)にも裏切られたと思い、傷ついていた時でした。純粋な伝兵衛に癒しを見たのでしょうね。

しかし、将軍となり、何もかも望む通りになる生活の中で、綱吉は伝兵衛に「いささか飽きました」と思うようになり、2人の「かすがい」だった松姫を失うことで、2人の心は離れてしまいます。壊れたように奔放に振る舞う綱吉とは対照的に、伝兵衛は自分の身は憂えど、腐り切ることも媚びることも他の男と張り合うこともしません。妻と亡くした娘に心を残しながら、自分なりに生きていくのです。

…格好良くないですか。

際立った特徴のあるキャラではないのですが、何度読んでも伝兵衛はこの「馬鹿馬鹿しい元禄の世」の中で、大奥に染まらない唯一の人物であり、それが故の魅力あるキャラクターだと思います。

松姫が生きていたら、もっと幸せだったかな。幸せだったよね。それが1番悲しい5巻です。

 

◆既刊(17巻)を全部読んだ後の小部屋◆※既読推奨

この綱吉編、男性の主人公は間違いなく右衛門佐なのですが、あまり触れないのは私がどうしてもそこまで好きになれないからです(苦笑)事情と矜持があるのはよく分かるのですが、狡猾さが前面に出過ぎていて…

 

で、ちょっと右衛門佐から派生して、違う話をしてみようと思います。

映画化されたものを実は観ました。

キャストは、綱吉→菅野美穂さん、右衛門佐→堺雅人さん。お2人はこの映画をきっかけにご結婚と。

そしてドラマだった有功・家光編の有功も堺雅人さん(家光は多部未華子さん)でした。

右衛門佐は有功思い起こさせる男という設定なので、同じ俳優さんを使ったのでしょうか。でも性格が全然違うので、『大奥〜永遠〜』を先に観てしまった私は、どうしても堺雅人さんが有功と思えず、『大奥〜誕生』は観ていないのです…

そしてこのずっと先に、「お万の方様の再来」と言われる男性が現れます。史実では天璋院篤姫の島津胤篤、もしくは同時代の大奥総取締の瀧山です。

私は胤篤・家定編が大好きなので(現在は17巻ですので、家茂・和宮編のほうが好きになっていますが)、これも実写化してみてくれないかな、と思っていました。自分のイメージ通りかどうかはさておき、どのようなキャストで制作されるか興味があったのです。

しかしこの流れからくると、胤篤か瀧山が堺雅人さん?胤篤が堺雅人さんなら、いっそ家定を宮崎あおいさんに演じていただき、NHK大河ドラマ『篤姫』の男女逆転版なんてどうか?とか、超ぶっ飛んでいる想像までしてしまいました(苦笑)

同じこと考えた方、いらっしゃいませんかねー…?

でもまあ、話題性は凄いですが、許されないでしょうね(笑)

とりあえず、それとはまた全然別に、瀧山は玉木宏さんが良いなとか思っていました(意見お受付します)

話が大分離れて発展してしまいましたが、『大奥〜永遠〜』は面白かったですよ。キャストぴったりでした。

菅野美穂さんの演技力の賜物だと思いますが、綱吉は愛らしく憎らしくそして哀しい。堺雅人さんは右衛門佐の底の見えなさが凄く良いし、柳沢吉保の尾野真知子さん、桂昌院の西田敏行さん、鷹司信平の宮藤官九郎さんもビジュアルからしてぴったり。

私の好きな伝兵衛は要潤さんでした。もう少し素朴なイメージの俳優さんでも良かったかなと思いましたが。

この右衛門佐・綱吉編がお好きな方は、映画も観てみてください。台詞もほぼ原作通りです。多分楽しんで入り込めると思います。