死役所14巻
あずみきし(新潮社・バンチコミックス)
本当は発売日に買い、書き始めていましたが、多忙と『大奥』中心で書いていたため、間が空きました。
もう15巻が出てしまいましたが…涙
(『大奥』の記事のアクセス数も伸びていました!ありがとうございます!)
シ村さんの過去に終始した13巻でしたが、今巻、直接は続かず。
死者の物語のオムニバスということで、普段通りの『死役所』です。
そしてきっちり、SNSの弊害や危険運転といった、現在の世相を反映する作り。相変わらず見事でした。
【各話サブタイトル・主人公】
・死んでからしたい10のこと
→犬飼爽朝。寝たきりの少女。
・知らない人達
→海宝菜苗。芸人の妻。※物語は夫の目線で進む
・無自覚
→相田和夢・(苗字不明)典暮・(苗字不明)夏音・牧田園絵。とある街に住む若者たちと助産師。
【感想】
13巻のシ村さんの過去が印象強く、先が気になり過ぎたため、拍子抜けした感が否めない14巻。
後ろ2つは内容も読んでいてキツく、私が1番好きなのはやはり『死んでからしたい10のこと』でした。
主人公の爽朝ちゃんは、恐らく生まれつき自分では自由に身体を動かせない障害があったのでしょう。
生まれつきだと考えたら、生まれてから17年。家族は長い間大変なこともたくさんあったでしょう。弟と妹にとっては、物心ついた頃には既に寝たきりだった姉。きっと両親は小さい自分たちより身体を動かせない姉を優先することも多かったはず。でも見る限り、弟の麗夜くんも妹の朝香ちゃんもお姉ちゃんが大好きだったようです。ご両親は勿論ですよね。
爽朝ちゃんが生前を思い返す最後のコマの「おやすみ 爽朝…」は多分最期の思い出でしょう…。恐らくお母さんの声。家族に見守られながら静かに旅立ってきたのですね。
あのニシ川さんにも「(家族に)愛されていた」と言わしめるほど。
そのとても可愛い爽朝ちゃんの願いを自然に叶えてあげようとする職員たち。ほっこりしました(そういえばシ村さんほぼ出てきませんでしたけど)
そしてほんの少しだけ、シラ神さんの過去が垣間見えるシーンもあり、気になりました。
(現在本誌ではシラ神さんのお話になっているようです!)
◆反復読後の小部屋◆※既読推奨
読んでいて胸クソ悪い(!)2つは、SNS問題に産後うつと危険運転。
「知らない人達」は、最後のほうで「あっ」となりましたが、進行役が死者ではありません(遺族)。夫がSNSの炎上に翻弄されて悩んでいる間に、妻が産後うつで自殺という、どうにも救われない話。
奥さんの自殺も報道されるでしょうから、やはりまた「ワンオペ育児を推奨していたせいだ」と叩かれるのでしょうかね。でもどちらにしても、出産と育児のことで非難されていた芸人が妻に産後うつで死なれたとあっては、この先ネタを素直に笑ってもらえるのでしょうか…
最後は多少炎上していたSNSに応援するコメントが散見されていた矢先の出来事でしたが…
ヘンジンカタギの行く末は全く分かりません。
一読したときは、顔後見えないこと名前を明かさなくても良いことに好き勝手言えるSNSの問題を浮き彫りにした物語だったと思い、ホウタさんに同情しましたが、繰り返し読むと、世の中の流れはこういうもので、変えることができないのであれば、芸能人なのだから考えて発言しないといけなかったのでは?という思うようになりました(『べしゃり暮らし』も読んでいたのでその影響かもしれません)
気にして好きなことが言えないのは嫌、芸風を曲げたくないというのであれば、気にしないメンタルも持ち合わせていないとダメだと思うし(ホウタさんは気にしまくりでしたから)
私は現実世界で批判的なことを思っても書き込みとかはしませんが、実際する人はいるので。その世の中で芸人(芸能人)をやるということは、最大限に言葉に配慮するか、ある程度叩かれる可能性を覚悟すべきなのでは…?と。いえ、芸能人だからといって傷ついていい人間などいないので、書き込む方も良識は絶対必要なのですが。矛盾していますけどね。
でも、夫として父親としては、奥さんのこと気付いてあげるべきでしたよね。「1人で頑張っている」奥さんを応援していたのは本心でしょうが、結果「1人だけで頑張らせた」だけです。ホウタさんは夫であり父親なので、「応援」だけで済むわけないと思いました。なので、私は、ホウタさんには申し訳ないのですが共感できませんでした。
「無自覚」は、どこをどう何度読んでも酷いです。
一読したときは、とにかく「馬鹿な若者4人」と思いましたが、改めて読むと、1番悪いのは華音に見えてきました。
勿論ガラの悪い彼氏とその友達、弟の言っていることも酷いのですが、「自分の弟だから」と兎之を下に見る態度。兎之は兎之で姉より出来の良いことで否定されることを気にしている模様。小さい頃からそう思って生きてきたのでしょうか。高校生くらいなら尚更、家族からの目も無視できないですものね。しかも姉の彼氏と友達は怒らせると怖いという感じですし。
「気に入られたかった」は、どのような感情からきていたものか分かりませんが、いじめっ子のいじめに加担してしまう子供のような印象も受けました。
そして、自分が死んだのだから弟も死ねと思うとか。若くして死んだ無念はあれど、弟をなんだと思っているのでしょうか。シ村さんはこの若者たちを「屑」認定していましたが、1番の屑は華音だと思いました。
しかし、華音たちは死んだので、もうこの事故のことで何か言われることもありません。兎之だけに恐らく加害者として苦しめられる人生が待っています。
もう自分を下に見る姉はいない、姉の友人達の顔色を窺うことも無い。でも、そのツケを払い続けないといけないでしょう。兎之はどう生きていくのでしょうか。
「知らない人達」もそうですが、『死役所』は、終わったあとどうなるのか本当に考えさせられる作品です。