反復する生き物

基本的には好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ(ときどき別コンテンツあり)。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

死役所7巻

死役所7巻

あずみきし(新潮社・バンチコミックス)

 

前巻で間違いなく何かあると匂わせていた「加護の会」がさっそく登場です。

シ村さんの過去がまた少しだけ見えてきます。

そして巻末では、死役所に結構大きな動きが!

実はこの巻を読んで、『死役所』を全巻買うと決めたのでした。

シ村さんそして死役所の皆さんの行く末を、私も見届けたいと思ったからです。

 

【各話サブタイトル・主人公】

・加護の会

→寺井修斗。加護の会信者の大学生。

・気遣い

→日原紺志。単身赴任中の愛煙家。

・新入職員

→他殺課職員・ハシ本。(背景等エピソードは語られず)

 

【感想】

今回のメインは勿論「加護の会」です。

この話はとても難しい。誰に視点を置くかで、全然違って見えてくるので。

宗教をテーマにしながらグロさはなく、スイスイ読んでいくうちに、修斗が自然に信者になっていて、違和感がありません。

でも信者ではない家族の目線になると、その気持ちもよく分かる。

上手い描き方だなぁ、と改めて思いました。

死役所の場面では、勿論シ村さんがグイグイ出てきます。

シ村さんの知りたい真相は、やはりここにあるようで、普段と違う表情が見られます。

 

そして最後は、文字通り新入職員が入ってきます。

新たに死刑が執行されたということです。

第一印象は掴みどころが無く、何を考えているのか分からない人なので、微妙な気持ちになりましたが、多分彼は、以前来た江越(1巻参照)と違って「屑」ではない。

この先主要人物となり、その過去と罪に何があるのか、明らかになっていく予感がします。

 

死役所 7巻 (バンチコミックス)

死役所 7巻 (バンチコミックス)

 

 

◆反復読後の小部屋◆※既読推奨

「加護の会」の物語の主人公は、端的に言ってしまうと、弟に対する学歴コンプレックスから新興宗教にのめり込んでいく、多数派には共感され難いと思われるキャラクターです。

ただ、上述しましたが、その「のめり込み」は、狂気じみた描き方がなされず、非常に自然。

スタート時点で、主人公は精神的に追い詰められていたわけでもなく、捻くれた考え方もしていないので、「この人いいこと言うなぁ。そう考えたら気持ちがなんか楽になった!」みたいな、誰しも日常で感じたことのありそうな気持ちが始まり。

そして皆の温かい態度に触れ、仲間でいたいと願うようになり、自分が安らげる居場所を見つけます。

しかし入信するとなった時の、全部財産は寄付とか睡眠させず断食させる(正常な思考回路ではなくなるでしょうよ)とかは、怪しい匂いがプンプンしました。

その極限状態で、修斗はついに加護の会の信仰に目覚めます。

ここからの修斗は、見る人によってはもう「おかしい人」ですが、連れ戻しに来た弟ににっこり笑ってこう言います。

オレはオレでいい

それが一番“幸せ”なんだって

本当に幸せそうだなと。

幸せは本人が決めるものだからね。

本人が幸せならそれでいいのでは?誰かに迷惑をかけているわけでもないし。

と思ってしまった一コマ。

でも弟には許せません。加護の会はカルト集団、兄をここから救わなくては、としか思えないのです。

「指差し」に激昂する場面は、やっぱりちょっと異常な感じするしね。

でもその後、弟と家族にぶつけた本心が衝撃的です。

俺はお前みたいな家族はいらない

お前わかるか?

自分より優秀な弟を持った兄貴の気持ち

どれだけコンプレックス持って どれだけ卑屈になってたか

「加護の会」にいたら そんな気持ち一切なくなった

オレはあそこが好きなんだ

一番自分らしくいられるんだ

人間いつ死ぬかわからないから オレはいつでも自分らしく生きていたい

オレは あっちの家族の方がいい

お父さんはやっぱり父親なので、息子の苦悩を思いやり、気がついてあげられていなかった自分を反省しているような様子。その苦悩から解き放たれた様子を尊重してあげようとさえします。

しかし弟は許せない。自分のせいだと言われているようでもあり、どうしても認められないのです。

気持ちは分かるけど…

コンプレックスなんて 宗教に頼らなくてもぶっ壊せる!

それ、あなたが言う?

卑屈になることなんて無かった人が、上から言っている言葉にしか思えない。

何が何でも自分の物差しに当てはめようとした弟から逃れようとして、結果修斗は命を落とします。でも、死をも恐れず受け入れ、加護の会で過ごした時間を幸せだったと、死後も振り返ることのできる修斗。

ここまで思えていたなら、もう他人がとやかく言うことではないのかな、と思わせられました。

「加護の会」は善か、それとも悪か。

シ村さんにとって何なのか。

あれこれ考えは尽きません。

 

「加護の会」だけで延々『死役所』が語れるので、忘れそうになりましたが、この巻のラストは衝撃的でした。

一番好きな登場人物と、もうすぐお別れをしなければならないようです。

次巻、涙無しでは読めないと思います。