特攻の島1巻
佐藤秀峰(芳文社・芳文社コミックス)
『ブラックジャックによろしく』『新ブラックジャックによろしく』が、紙も電子も全巻持っている程好きなのですが、この作品は存在を知りながら、題材から読むのを躊躇っていました…
が、最近は家にいる時間も長いので、何か読んでみようと思ったところで、意を決して読んでみた次第です。
【あらすじ】
昭和19年9月、福岡海軍航空隊予科練に入隊していた渡辺裕三(わたなべ・ゆうぞう)は、友人・関口政夫(せきぐち・まさお)と共に新しい特殊兵器の搭乗員に志願し、大津島へ渡る。
そこには、志願前には多くを語られなかった新兵器が待っていた。
名は回天 すなわち人間魚雷であるーーー
主人公は渡辺(二等飛行曹兵)。絵を描くのが好きで家族思いの少年が、回天搭乗員となり、戦争に身を投じていく物語です。
1巻は渡辺が回転搭乗員となり、出撃を待つところまでになります。
【感想】
冒頭は、何らかの兵器を開発して上官に訴えている若い軍人さん2人のシーンから始まります。あらすじを読んでいるので、この兵器が回天であること、また、呼ばれている名前から、2人が回天の創案者・仁科関夫(にしな・せきお)中尉と黒木博司(くろき・ひろし)大尉だということが分かります。
お二方は実在の人物なので、渡辺と関口は?と思い調べてみましたが、この2人は架空の人物です。でも志願兵の中にはきっと、2人のような若者もいたのだと思います。
2人は、回天の説明を聞き、一度乗っただけでその弱点と欠陥に気付きました。この時代に生まれたことに恨み言一つ無く、かといって皇国に捧げる情熱を燃やしているわけでもなく、「逃げるわけにはいかない」「他にやれる事なんてない」という気持ちで志願した2人ですが、欠陥兵器で犬死にすることには抵抗があるという。読者の立場からは理解しがたく(決して悪い意味では無い)、複雑で、でもだからこそリアルで、掴めないのについ読んでしまうという感じでした。
1巻を読み始めて、主人公の気持ちが1冊読み終わってもほぼ掴めなかったら、本来、続きを読む気にはならないのではないかと思うのですが…
それでも読者の心を掴む不思議な作品だと感じさせられました。
◆反復読後の小部屋◆※既読推奨
上にも書きましたが、渡辺の気持ちが非常に掴みにくい。1度目は分からないながら勢いでストーリーを追っているうちに読み終わったという感じでしたが、結局渡辺の気持ちは何度読んでも1巻だけでは分かりませんでした…
それもそのはず、本人にさえ分からないのですから。
読者も渡辺と一緒に考えさせられるのです。
そのようなわけで1度目は、話の流れ以外はあまり頭に入ってきませんでしたが、2度目以降は台詞も頭に入ってきました。
分かりません…
でも分からない理由は分かりました…
俺には何もありません…
生きる理由も…
死ぬ理由も………
仁科中尉に訓練中に回天の中で言った台詞です。
この頃仁科中尉は21歳。渡辺と関口で、「4,5歳しか変わらない」と言っていましたので、渡辺は16,17歳くらいということになります。まだ、生きる意味、ましてや死ぬ意味など分からなくて当然の年齢だと思います。
しかし渡辺は、もうすぐ死ぬことになるであろう自分の運命にも、その運命を課した時代にも、悲観したりしていません。
次のページですぐに仁科中尉に続けます。
このまま死んだように生きたくはありません…
ここで命を燃やします………
たった16,17歳の少年に、このように決死の覚悟をさせた戦争。渡辺は最後どうなるのだろう、という思いに強くかられながら、2巻へ手を伸ばしました。