反復する生き物

基本的には好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ(ときどき別コンテンツあり)。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

空飛ぶタイヤ(映画)

空飛ぶタイヤ(映画)

 

池井戸潤先生初の映画化作品だそうです。

というわけで、この機会に見ておくしかない!

公開が2018年なので、『七つの会議』で2作目ということですよね。映画化は意外に少ないことを知って少し驚きました。

 

空飛ぶタイヤ

空飛ぶタイヤ

  • 発売日: 2019/07/31
  • メディア: Prime Video
 

 

原作は上下巻なのですね(未読)

『七つの会議』でも駆け足に感じたのに、2冊を2時間にまとめられるもの?

と、疑問はありますが、 逆に考えると、映画に無かった背景とかが原作には存在するということかと思うので、そのうち読んでみようかと思います。

 

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)

  • 作者:池井戸 潤
  • 発売日: 2009/09/15
  • メディア: 文庫
 

 

空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)

空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)

  • 作者:池井戸 潤
  • 発売日: 2009/09/15
  • メディア: 文庫
 

 

【あらすじ】

ある日、赤松徳郎(長瀬智也)が社長を務める赤松運送のトレーラーが走行中にタイヤが外れるという脱落事故を起こした。脱落したタイヤは歩行していた親子の母親に激突し、柚木妙子(谷村美月)という女性が即死する。

事故の原因は赤松運送の整備不良とされ、警察の捜査が入り、取引先から取引を打ち切られるなど、経営の危機に立たされてしまう。

しかし、自社の整備に問題があったとは思えない赤松は、先頃類似の事故が起きていたことを知り、車両自体の構造上の欠陥を疑い始める。

 

原作も読んでいないし、あらすじは全く見ずに借りてきたので、タイトルの『空飛ぶタイヤ』は、何かまた『下町ロケット』や『陸王』みたいな、中小企業の夢ある思いが含まれているのかなと思っていたら、全く違いました。

 

【ネタバレに触れないようにした感想】

監督が本木克英監督と、『下町ロケット』や『七つの会議』(福澤克雄監督)と異なるというところでしょうか。出演者が私が観てきた池井戸作品とほぼ重複しておらず、非常に新鮮な気持ちで観ました。

※重複していた俳優さん

・木下ほうかさん:『下町ロケット』水原重治

・和田聰宏さん:『下町ロケット』江原春樹

・近藤公園さん:『下町ロケット』近田

でも皆さん、『下町ロケット』の役の感じと遠からずという印象でした。

 

観ていて先は気になるし、登場人物も良くも悪くも個性的で感情移入してしまうので、非常に面白かったのですが、他の映像化された池井戸作品のような痛快さとコミカルな笑いはありません。

なので、あれを期待している方にはお勧めできません。

テーマが死亡事故を発端としている、社会的な問題だからでしょう。その点では『七つの会議』に近いのですが、『七つの会議』は実際に事故が起きていないこと、焦点が「居眠り八角」に当たっているため野村萬斎さんのコミカルさが出ていることから、ここまで重くない。(個人的には香川照之さんの持つ愛嬌も手伝っていると思います)

しかし逆に、本来池井戸潤先生の作品が持つ重みを表現している描き方なのでは?と思うので、私は好きです。

 

特に、被害者柚木妙子の遺族である夫・雅史の浅利陽介さんの演技は素晴らしかった。

当然観ていれば赤松運送を応援しているのですが、雅史がその赤松運送に愛妻の命を奪った憎しみを込めて罵詈雑言を吐くシーンが1番心を揺さぶられました。

もちろん最終的には和解するのですが、それでも妙子は戻ってこない。雅史の悲しみは永遠に消えることはなく、その怒りに行き場がないのは変わらないのです。

登場人物の人物像がリアルで個性的というのが池井戸作品の魅力だと思うので、事件解明とそれに伴う企業の面々にもグッと引き込まれるのですが、2シーンしか出てこない浅利陽介さんが私には一番でした。

というわけで、痛快勧善懲悪ではありませんが、見応えがあり、観る価値のある映画だと思いました。

 

なので、話は戻りますが、恐らく原作では更に登場人物一人一人を深く掘り下げていると思うので、やはり読んでみようと思います。

個人的には、高橋一生さん演じた井崎が非常に気になります。銀行員としてスマートに正義を貫いたという感じでしたが、本心はどこに、行動の動機はどこにあったのか、知れるものなら知ってみたい。

腐れ縁の雑誌記者・榎本優子(小池栄子さん)は、原作では男友達・榎本崇だそうなので、また映画には無いエピソードもあるのかという期待感もあります。

 

 

 

↓以下注意↓

【ネタバレありの感想】

映像化と原作を比較してだんだん分かってきましたが…

池井戸作品は映画もドラマも、限られた時間の中にスクリーン向きのエピソードを入れ込み、主役を際立たせることにより、大きな魅力のひとつである(と私は思う)他の登場人物像が霞むという残念さがある気がします。

『空飛ぶタイヤ』も例に漏れず、という感が否めませんでした。

 

物語は、大手企業の「リコール隠し」を巡って、汚名を着せられた運送業者・事故原因となったトラックの製造者・そのメーカーと同グループ企業の銀行という三者のパートに分かれています。

赤松運送の整備不良が事故の原因ではないということは、観ていれば早くから確信に近い勢いで予想できるので、どのように明らかになっていくかが焦点です。

赤松運送はもちろん社長の赤松、ホープ自動車は販売の部署の澤田、ホープ銀行はホープ自動車の融資担当の井崎がそれぞれ中心。

ですが、その三者三様がどうも見えてきません。

恐らく原作は、上下巻ですし、三者三様がもっと色濃く浮かび上がっているものになっているだろうと思います。

赤松運送は主役なのでまだ分かるのですが、準主役というポジションであろうホープ自動車の澤田(ディーン・フジオカさん)さえ少々分からない。

澤田は、最終的には人道的な選択をしたようですが、途中、赤松と協力というわけでもなく、野心もありそうで会社に取り込まれそうな一面も見えたりして、今ひとつ本心がどこにあったのか分かりませんでした。しかも最後、赤松とお互い「もう2度と顔を見たくない」と言い合って去っていくという…

更に分からないのはホープ銀行の井崎。彼は雑誌記者の榎本を通してしか赤松と関わらないし、出番も少ない。でも高橋一生さん演で、有能かつ会社のしがらみに囚われない信念を感じさせる、いわゆる「格好良さそうな役」です。なのにストーリーの中では、全然重要ではない。

だからストーリーは面白いのですが、映画の作りとしては若干不満です。

 

全体的に不満な感じの感想でここまで長くなってしまいましたが、書くことがあるということは、それだけ考えさせられたということだと思います。

作品(原作)そのものに力がある証拠かと。観た後無関心で捨て置けるレベルのものではないということで、観た価値はあったと感じます。

現時点では私も未読ですが、原作を読むことをお勧めします。